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盛岡地方裁判所 昭和33年(行)5号 判決

原告 斎藤富太郎

被告 岩手県知事

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二四年二月二五日付岩手県報による岩手県告示第一一六号をもつて別紙目録記載の土地についてなした買収処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、別紙目録記載の土地は、原告の所有であるところ、岩手県農地委員会は、昭和二二年九月四日右土地について原告を被買収者として旧自作農創設特別措置法(以下旧自創法と略称する)第三〇条第一項第一号による第二期未墾地買収計画を樹立し、同月一二日その旨公告しかつ同日から同年一〇月一日まで旧水沢町農地委員会において右計画書類を縦覧に供したので、原告は同年九月二九日異議を申し立てたが同年一一月一一日却下決定があり、右決定書謄本は同月二五日交付された。そこで被告は所定の認可手続を経た上昭和二三年三月三〇日右買収計画に基いて右土地について原告宛の買収令書を発行し、昭和二四年二月二五日同日付岩手県報による岩手県告示第一一六号をもつて右買収令書の交付に代る公告をして買収処分をなした。

二、しかしながら、前記買収処分には次のような瑕疵がある。

原告は、数十年来水沢市内で歯科医を営んでおり、その住所は右処分当時においても判然していたのであるから、被告において令書交付の手続をとろうとすれば、容易にとりえたはずであり、また原告は前記買収令書の交付に代る公告前、被告から前記令書の受領を求められたこともなければ、これを交付する旨の通知に接したこともなく、その受領を拒否した事実もないのである。

したがつて右買収処分は、被告において原告に右令書を交付することができない事由が存在しなかつたのにかかわらず交付に代る公告をもつてした処分であり違法である。

しかもその瑕疵は重大かつ明白であるから右買収処分は当然無効である。

三、前記買収処分の無効確認を求めると陳述し、

立証として、甲第一号証を提出し、証人後藤達男、斎藤ミヨシ、芳賀キク、及び高橋俊一の各証言を援用し、乙号各証の成立を認めた。

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

一、原告主張の土地がもと原告の所有であつたこと、右土地について原告主張の日時、岩手県農地委員会が原告主張のような買収計画を樹立し、これに対する公告縦覧及び原告の異議申立等の手続経過を経たこと及び被告が所定の認可の手続を経た上原告主張の日時右買収計画に基いてその主張の買収令書を発行し、その主張の告示をもつて公告をして買収処分をなしたことはこれを認めるが、その余の事実を否認する。

二、被告は昭和二三年四月頃旧水沢町農地委員会を通じて前記買収令書を原告に交付しようとしたが原告にその受領を拒絶され、令書を交付することができなかつたので、令書の交付に代えて前記告示をもつて公告をしたものであるから、前記買収処分には原告主張のような違法の点はない。

三、よつて原告の請求は失当であると述べ、

(立証省略)

理由

原告主張の土地がもと原告の所有であつたこと、右土地について原告主張の日時岩手県農地委員会が第二期未墾地買収計画を樹立し、これに対する公告縦覧及び原告の異議申立等の手続経過を経たこと及び被告が所定の認可の手続を経た上原告主張の日時右買収計画に基いて買収令書を発行し、その主張の告示をもつて公告をして買収処分をなしたことは当事者間に争いがない。

原告は、本件買収処分は交付に代る公告をもつてなすべき要件がないのにかかわらず交付に代る公告をしてなしたものであり違法であると主張するのでこの点について判断するに、成立に争いのない乙第一、二号証及び乙第三号証の一ないし七並びに証人後藤達男、芳賀キク、小岩尚蔵及び千田正夫の各証言を綜合すると、本件土地のある旧水沢町桜屋敷西地区では本件買収計画と同時に原告を含む二十余名の所有土地について未墾地買収計画が立てられ、その買収令書がいずれも昭和二三年三月下旬頃発行され、被告から胆沢地方事務所を経て旧水沢町農地委員会に送付され、同農地委員会がその頃原告ら二十余名に対し買収令書を交付するから同委員会に出頭されたいとの通知を発して原告外一名を除いた者にはその頃右買収令書を交付しており、原告が出頭しなかつたのでその後間もなく同委員会の職員が岩手は第一一三六号本件買収令書を交付すべく原告方へ赴いたところ、原告不在のためその妻斎藤ミヨシに右令書の受領を求めたが、受領を拒絶されたこと及び当時原告が本件買収計画に対し異議を申し立てたが却下されていたのであり、既墾地の買収令書の受領も拒否していたことが認められる。右認定に反する証人斎藤ミヨシ、及び高橋俊一の各証言部分は信用しない。甲第一号証によつても右認定を覆えすに足らない。他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

しからば、右の事実は旧自創法第九条一項但書にいう令書の交付をすることができないときに該当するものと解されるから、これに基いて令書の交付に代る前示公告をもつてした被告の本件買収処分には何ら原告主張の違法はない。

よつて原告の本訴請求は理由がないので棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上武 須藤貢 真田順司)

(別紙目録省略)

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